税理士事務所や会計事務所の業務において、PCは欠かすことのできない最も重要なツールの一つです。日々の記帳代行から、煩雑な税務申告、クライアントとのコミュニケーションまで、その業務は多岐にわたり、PCの性能が業務効率に直結すると言っても過言ではありません。
しかし、「どんなPCを選べば良いのかわからない」という声も多く聞かれます。そこで本記事では、税理士事務所・会計事務所の業務内容に特化し、なぜそのスペックが必要なのかを具体的に解説しながら、最適なノートPCの選び方をご紹介します。
文章の最後におすすめPCを紹介していますので、結論だけ知りたい方は目次からスキップしてください。
会計事務所が選ぶべきPCスペックはこれだ!
まず結論からお伝えします。これからPCを新しく購入するなら、以下のスペックを基準に選ぶことを強く推奨します。
- OS: Windows 11
- CPU/プロセッサ: Intel Core Ultraシリーズ (Copilot+ PC対応) または Core i7以上
- メモリ: 32GB
- SSD: 512GB以上
なぜこのスペックが必要なのでしょうか?一つずつ詳しく見ていきましょう。
1.OS:OSはWindows 11一択
会計事務所にとって必須のアプリケーションであるe-Tax(国税電子申告・納税システム)とeLTAX(地方税ポータルシステム)。これらのダウンロード版は、残念ながらWindowsにしか対応していません。
両システムで推奨されているOSは以下の通りです。
- Microsoft Windows 10(32bit/64bit)
- Microsoft Windows 11(64bit)
ここで重要なのが、Windows 10のサポートが2025年10月をもって終了する/終了したという点です。セキュリティのリスクや将来的なソフトウェアの互換性を考えると、これから新しく購入するPCはWindows 11一択となります。
ちなみに、Windows 11は64bit版しかラインナップされていないため、「32bitか64bitか」で悩む必要はありません。また、Windows 11にはHome版とPro版がありますが、個人はHome、企業はProを選んでおけばよいでしょう。
2.CPU/プロセッサ:なぜ「Intel製」が必須なのか?
CPU(プロセッサ)はPCの頭脳にあたる非常に重要なパーツです。現在、Windows PCに搭載されているCPUは、主に以下の3社が製造しています。
- Intel(インテル): Core iシリーズやCore Ultraシリーズなど
- AMD(エーエムディー):AMD Ryzen
- Qualcomm(クアルコム):Snapdragon
結論から言うと、会計事務所が業務用PCを選ぶ際はIntel製のCPUを搭載したモデルを選んでください。
その理由は、多くの会計ソフトや税務申告ソフトが、Intel製CPUを前提に開発・動作保証されているためです。主要なソフトウェアの対応状況を調べてみると、その傾向は明らかです。
| ソフトウェア名 | 対応CPU |
| TKC | Intel製またはAMD製 (AMD製はモバイル環境のみ利用可) |
| 弥生会計 | インテルプロセッサまたは互換プロセッサ |
| PCA会計 | Core i3 以上必要 Core i5 以上を推奨 (=Intel製) |
| 勘定奉行 | インテル Core i3 プロセッサ 以上 (推奨:Core i5 以上) |
| JDL | Intel製(ARM版Windowsには非対応) |
| 達人シリーズ | インテルプロセッサまたは互換プロセッサ |
※ freeeやマネーフォワードといったクラウド会計は、Google Chromeなどのブラウザ上で利用するため、特定のCPUメーカーに依存しません。
【注意】最新のSurface Proは使える?
例えば、2024年に発売された最新の「Surface Pro(第11世代)」は、CPUにQualcomm社の「Snapdragon® X Elite」などを搭載しています。これはIntel製ではないため、上記に挙げたような多くの業務用ソフトウェアが正常に動作しない可能性が非常に高いと言えます。デザイン性に惹かれて安易に選ばないよう注意が必要です。
Intel製CPUなら、どれを選べば良い?
では、Intel製のCPUの中から具体的にどれを選べば良いのでしょうか。用途に合わせて2つの選択肢が考えられます。
AIを幅広く活用したい場合
Copilot+ PC対応の「Core Ultra」シリーズ
現在、Intel製CPUの主流は、AI処理性能を高めた「Core Ultra」シリーズに移行しつつあります。特に、最新のAI機能をフル活用できるハイスペックなPCは「Copilot+ PC」と呼ばれており、これからの時代を見据えるなら最適な選択です。具体的には「Core Ultra 5 226V」以上のCPUを搭載したモデルを選ぶと良いでしょう。
AIはあまり使わない場合
「Core i7」以上を推奨
現時点ではAIの活用をあまり考えていないという場合でも、パフォーマンスに余裕のある「Core i7」以上を推奨します。PCA会計の推奨スペックは「Core i5以上」となっていますが、PCの法定耐用年数である4年を超えて快適に使い続けることを想定すると、少しでも性能の高いモデルを選ぶことが将来的な安心に繋がります。
(※ 以前の廉価モデルであった「Celeron」や「Pentium」は2022年に廃止されており、後継の「Intel Processor」もCore iシリーズの下位モデルのため、業務用途では候補から外れます。)
3.メモリ:なぜ「32GB」を推奨するのか?
メモリは、PCが一度に処理できる作業量を決める重要なパーツです。「16GBでも十分では?」と思われるかもしれませんが、将来的な快適性を見越して32GB以上を強く推奨します。
実際に、税理士事務所の業務シーンを想定して、メモリの消費量をシミュレーションしてみましょう。
- Windows 11の起動だけで… 約4GB〜6GBを消費
- ブラウザで情報収集(タブ10個) 約2GB〜3GBを追加で消費
- 会計ソフト、申告ソフト、Excel、Word、Outlook、Slack、ChatGPTなどを同時に起動し、BGMにYouTubeを流すと… あっという間に16GBの上限に近づいてしまいます。
メモリの使用率が常に80%〜90%のような高い状態が続くと、アプリケーションの切り替えが遅くなったり、PC全体の動作がカクついたりと、業務効率の低下に直結します。
今後、OSや各種ソフトウェアにAI機能が搭載されることで、メモリの要求スペックはさらに高まることが予想されます。ストレスのない快適な作業環境を維持するために、メモリは余裕のある32GBを選びましょう。
4.SSD:なぜ「512GB」以上が賢明か?
OSとシステムの占有領域
Windows 11のシステムや将来のアップデート、回復パーティションなどで、購入時から既に50GB〜60GBが使用されています。256GBモデルの場合、実際にユーザーが使える領域は200GB程度からスタートすることになります。
専門アプリケーションの容量
「弥生会計」や「達人シリーズ」といった業務用ソフトウェアや、Microsoft Officeなどをインストールすると、さらに数十GBの容量が消費されます。
将来のAI機能による消費
今後、AI機能がOSやソフトウェアに統合されていくと、AIモデルのデータなどでストレージの消費量がさらに増える可能性があります。
パフォーマンスの維持
SSDは、空き容量が少なくなる(一般的に20%以下)と、データの書き込み速度が低下する特性があります。常に快適なパフォーマンスを維持するためにも、ストレージには余裕を持たせておくことが重要です。
これらの点を考慮すると、256GBでは数年で容量不足に陥るリスクがあります。安心して長く使うために、512GB以上のSSDを選びましょう。
まとめ
今回は、税理士事務所・会計事務所が選ぶべきノートPCのスペックについて詳しく解説しました。
- OS: Windows 11 (e-Tax/eLTAX対応と将来性のため)
- CPU: Intel製 (業務用ソフトの互換性のため)。AI活用ならCore Ultra (Copilot+ PC)、そうでなくてもCore i7以上を推奨。
- メモリ: 32GB (複数ソフトの同時利用と将来のAI機能を見据えて)
- SSD: 512GB以上 (OS、ソフトの容量とパフォーマンス維持のため)
PCは決して安い買い物ではありませんが、日々の業務効率を左右する最も重要な投資です。目先の価格だけでなく、数年先まで快適に使い続けられることを見据え、ぜひ今回の記事を参考にご自身の事務所に最適な一台を選んでください。最後にCopilot+PCに対応したお勧めPCを列挙しておきます。
AIを利用したい(Copilot+PC)
FMV Note U
OS: Windows 11 Home
CPU: インテルCore Ultra 7 プロセッサー 258V
メモリ: 32GB
SSD: 512GB
HP OmniBook X Flip 14-fm
OS: Windows 11 Home
CPU: インテル Core Ultra 7 258V
メモリ: 32GB
SSD: 1TB
Dell 14 Plus
OS: Windows 11 Home
CPU: Intel Core Ultra 9-288V
メモリ: 32GB
SSD: 1TB
Lenovo Yoga Slim 7i Aura Edition Gen 9 15.3インチ
OS: Windows 11 Home
CPU: インテル Core Ultra 7 プロセッサー 258V
メモリ: 32GB
SSD: 1TB
順次追加予定


